ある朝、町に「空色のトランペット」が落ちてきた。拾ったのは、のんびり屋の猫・ミルク。
ミルクが試しに「ぷぅ」と吹くと、なんと空からキャンディが降ってきた。町中の子どもたちは大喜び。「もう一回!」とせがまれて、ミルクは得意げに胸を張る。
しかし二回目に吹くと、今度は空から風船がどっさり降ってきて、子どもたちごと空へふわりと浮かび上がってしまった
慌てたミルクは風船の紐をつかんで一緒に飛んだ。空の上には綿あめみたいな雲の島があって、雲のうさぎたちがくつろいでいた。
うさぎたちは言った。「トランペットは、吹いた人の『今の気持ち』を空に広げるのさ。楽しい気持ちならキャンディ、びっくりした気持ちなら風船。」
ミルクはにっこり笑って、もう一度だけトランペットを吹いた。
今度は心から、みんなが楽しく帰れますようにって。
すると雲が虹のすべり台に変わり、子どもたちもミルクも、するすると町へ戻ってきた。
みんな大笑い。
ミルクは言った。「気持ちひとつで、世界は変わるんだね。」
うさぎたちは雲の上から手を振った。
町には今日も、ミルクの優しい音が響いている。
あの日から、ミルクはすっかり町の人気者になった。空色のトランペットは、町のパン屋のおばあさんの棚の上に飾られている。
誰でも吹けるわけではなく、ミルクが自分の気持ちを整えたときだけ、そっと音が鳴るらしい。
町の子どもたちは毎日のように「今日は何が降る?」と聞きにくる。ミルクは尻尾を揺らしながら答える。「わからないよ。気持ちはいつも変わるからね。」
ある日、町に元気のない男の子がいた。名前はソラ。最近引っ越してきたばかりで、まだ友だちがいない。ミルクはそっと隣に座った。
「ねぇ、君の今の気持ち、どんな色?」
ソラは小さな声で言った。「ちょっと…曇り空。」ミルクはうなずき、トランペットを胸に抱えた。そして、ソラと一緒に深呼吸。
雲を見上げ、風の匂いを感じ、胸の中の小さな気持ちを見つける。
「じゃあ、一緒に吹いてみよう。」
ふたりで「ぷぅ」と音を響かせると、空はふわっと淡いオレンジに染まり、小さな紙飛行機がいくつも舞い降りてきた。紙飛行機には、それぞれ短いメッセージが書かれていた。
「ここにいていいよ。」
「ゆっくりでいいよ。」
「遊ぼう。」
子どもたちは紙飛行機を拾い、笑いながらソラの手を引いた。
ソラの顔にも、少しずつ色が戻っていく。
ミルクはそっと微笑んだ。
トランペットは魔法の道具じゃない。
気持ちを、ちゃんと感じるための道しるべ。
そうして今日も、町にはふわりと優しい風が吹く。
それはきっと、ミルクの音の続き。
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