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物語

【フリー物語】コーヒー豆と謎を煎れて

簡単なシナリオ

オフィス街の細い路地にひっそりと佇む一軒の喫茶店。

そこは一風変わった探偵がコーヒーを淹れる探偵事務所である。

だれでも気軽に入れる喫茶店には、だれも足を踏み入れてはいけない謎も容易に踏み入ってしまうようだ。

そんな探偵喫茶に、本日も一人の女性が足を踏み入れる。

彼女の心を縛る謎を、探偵はほどいてあげられるのだろうか。

朗読時間:10分

登場人物

①後藤誠二(ごとうせいじ)

探偵事務所の所長。普段は喫茶店でコーヒーを淹れている。

頭はキレるが、人の気持ちを考えない性格

②渡辺ゆきな(わたなべゆきな)

依頼者。

③伊藤拓真(いとうたくま)

依頼者。

香ばしい香りの中で

いらっしゃいませ。

私はこの喫茶店の店長をしています。後藤誠二(ごとうせいじ)と申します。

珈琲店を営みながら、探偵をやっております。

私の探偵事務所は、少し変わっているといわれるが、

探偵の仕事を知っている者なら大して違和感のある事でもないだろう。

探偵は、普通じゃいけないのだから。

私の探偵事務所はここ、喫茶店である。

お昼にはサラリーマンやOL、夕方には学生がコーヒーを飲みながら勉強に励んでいる

どこでも見るような入りやすい喫茶店。

看板?ちゃんと出しているさ。

”謎淹れ珈琲店”

そもそも、探偵の収入源は何だと思う?

大きな殺人事件のなぞ解きをやっているなんて現代人が本当に信じると思うか?

しないさ。表向きにはね。

わたしも妻も、私の子供も、私の収入で生活しているんだ。廃業なんてできない。

しっかりと稼がせていただいている。

で、探偵の仕事は何なのかって?

浮気調査さ。

つまらない?でも、当事者になってみたらどうだい?

自分の妻、夫が浮気しているかもしれない謎にモヤモヤして、

何も手につかず、誰に相談することもできず、さて、誰にすがろうか。

探偵に依頼すればいいと、すぐに考え付く人も少ないし、

だいたい、探偵事務所に行くなんて、勇気がいるだろう?

多くの探偵事務所はビルの中、明るい事務所を構えているところなんて、まだ少ないだろう。

ここは、入りやすいだろうがね。

店内の男性:「あ~、また店長、独りごと言ってるよ。公安委員会発行の許可証なんて金縁に入れて飾ってる喫茶店どこにあんだよ。」

渋いのがお好みですか

良く晴れた平日のお昼。気持ちも晴れ渡る。

後藤「いらっしゃいまっせ」

お客さんだ。顔を見れば、どっちの客かはよくわかる。

お茶を飲むのか、私の提案の飲むのか。少し言葉を交わしましょう。

悩ましい顔の女性:「あの、奥の個室の席、座っていいですか?」

後藤:「すいてますので、どうぞ。傘はあちらの傘立てに。」

後藤:「メニュー表です。」

悩ましい顔の女性:「……え?このメニュー表、食事が」

お客様は驚いている様子だが、当然です。喫茶店なのに、わたし、サンドイッチやコーヒーなんて書かれたメニュー表は出しませんでしたから。

後藤:「あなたのお顔を見れば、探偵事務所としての当店へいらしたことは、すぐに分かります。どうぞ、コーヒーは無料でございます。」

悩ましい顔の女性:「あ、あの! 実は、私、奥さんのいる男性とお付き合いさせていただいておりまして」

ここは浮気調査をする事務所なんだが。

悩ましい顔の女性:「バレないようにするには、どうすればいいのでしょうか。奥様、わかなさんって言うんですけど、私に探偵をつけているようで。どうすべきか聞くなら探偵さんに聞くのが一番かと!」

「お客様のおっしゃる通りでございます。蛇の道は蛇。法律家には法律家を。探偵には探偵を。とても賢い方でいらっしゃる。それに、カバンに入れている折り畳み傘。とても用心深い方なんですね。折り畳み傘をいつも持ち歩いているのに、普通の傘までもっているなんて。失礼ですが、お名前をうかがってもよろしいですか?」

悩ましい顔の女性:「源氏名ですか?」

後藤:「いいえ、本名でお願いします(源氏名って……。)」

悩ましい顔の女性:「わたなべ……渡辺ゆきなといいます。」

後藤:「渡辺様、この度は、ご相談いただきまして、誠にありがとうございます。」

渡辺:「どうすれば・・・・・・」

後藤:「まだ浮気をしているのはバレていませんね?」

渡辺:「はい・・・・・・」

後藤:「なら、1ヵ月、浮気をやめてください。一か月以内に、わたくしが、その素敵な紳士の奥様が別の男と浮気をしている証拠を揃えましょう。紳士が分かれたなら、あなたと結ばれて、浮気ではなくなる。」

渡辺:「奥さんが浮気しているなんて、ないと思いますけど」

後藤:「してない証拠はありますか?」

渡辺:「ありませんけど。」

後藤:「では、その紳士から、わたくしに依頼していただくよう、お願いいたします。」

渡辺:「わかりました。あの方も、私とって言ってくれているので、きっと依頼してくれるはずです。」

後藤:「お待ちしておりますよ。あ、コーヒーは、無料です。」

渡辺:「ありがとうございます。では、また来ます。」

紳士のスーツの裏側は

2日後、今日は土曜日だ。

後藤「いらっしゃいませ。」

渡辺:「あ、あの、連れてきました……。」

渡辺と来店してきた男性:「はじめまして。先日はゆきながお世話になったようで。伊藤拓真(いとうたくま)と申します。ゆきなとは、本気なんです。」

後藤:「まぁ、お座ってください。さ、奥の席へ。コーヒーをお淹れします。」

後藤:「それで、お二人は、結ばれたいんですよね?」

渡辺・伊藤:「はい。」

後藤:「先日もお話ししましたが、浮気は1か月やめてください。1か月以内に、奥様の浮気を突き止めます。

渡辺:「前も思ったんですけど、唐突すぎて、探偵さんが、どうしてそんなに自信をもって奥様が浮気をしているといえるのかわかりません。まさか、美人局(つつもたせ)とかしようとしてるんじゃないですよね?」

後藤:「そんなことはしませんよ。」

後藤:「伊藤さん、奥様、浮気してますよね?」

伊藤:「……たぶんしていると思います。」

渡辺:「え?」

後藤:「渡辺さん。喫茶店をやっているとね。外をよく見るんですよ。うち、暇ですし。ここはオフィス街じゃありませんか。会社の休憩時間なんていつも決まってますし、外を歩く人の流れは違っても、たいてい同じ人が同じ時間に歩いている。あなたがこの店に来るのが初めてじゃないことも、すぐに分かりました。入店してすぐに、奥に個室があるなんてよくわかりましたね。しかも空いてることを知ってるなんて。店外で10分は入店を悩んだんでしょうね。」

後藤「奥様と呼ぶのは言い慣れてなかったですか?わかなさんなんて、浮気相手の奥さんを名前で呼ぶなんて、あまりしないですよ。同僚だと推測しました。」

渡辺:「すごい……。その通りです。たくまさんの奥様は、私と同じ会社で経理をやってます。」

後藤:「で、伊藤さんも渡辺さんと同じ会社の人間だ。よく13時ころ、走ってこの喫茶店の前を通っていく。」

後藤:「喫茶店をやっているとね、外をよく見るんですよ。その走っていく男性が雨の日になると、いつも傘を忘れて、決まった女性が傘をさしてあげている姿を。」

後藤:「それは、伊藤拓真さん、と、わかなさんだ。そして、渡辺さん。あなたの浮気相手は、よく傘を忘れる男性。確定じゃありまん。探偵だって人間ですから、推測です。推理は事実までの道のりでしかない。」

後藤:「その相合傘をする女性、夕方はあなたと相合傘をするのに、20時には、小さなお子さんと、あなたではない男性と、この喫茶店の前を歩いていくのをよく見かけます。どうしてでしょうかね。」

伊藤:「探偵さん、私は、わかなと別れて、ゆきなとやり直したいんです。わかなの浮気を突き止めてください。

後藤:「お任せください。」

苦しみはミルクのように溶け込んで

さて、依頼ですか。案の定、伊藤拓真さんの奥様、わかなさんは、浮気をしていましたよ。

探偵は顔を覚えるのが第一歩なんです。

人の流れを景色のように見ているのではなくて、観察しろと、よく先生に言われたものです。

依頼が来た時点で、私には、いくつもの淹れ方が頭に浮かんで、どんな味になるか、舌が覚えているんですよ。

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